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SxP DAY vol.374「私の消滅」

制作中は、映画も小説も
わりとほのぼのしたものを手にすることが多く、
読み物でのスリルは
久しく味わっていなかったここ最近。

先日、レコーディングもひと段落したので、
読めていなかった作品の中から
中村文則さんの「私の消滅」を手に取る。



“このページをめくれば、
あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。”

まるで姿の見えない何かが
部屋の隅でじっと息を殺し
こちらを監視している気配を
感じとるかのように、
不吉さ漂う一文で物語が始まる。

もしも違う記憶が埋め込まれ
操作された上で生きる時、
それは「私」といえるのか。

実際に起きた過去の
殺人事件の犯人の心理分析と共に
繰り広げられる物語。

世の中には、自らの手を汚さず
他人を傷つける事のできる
恐ろしさが存在する。

それも、何食わぬ顔で
簡単に傷つけられる人間が存在する。

この作品は、そんな「悪」が
派生し、生み出し続ける、
止められない負のサイクルを描いている気がする。

主人公“小塚”と
そこに関わる者たちの
歩んできた日々、
全てが繋がる瞬間、読者を
絡まり合う影へ、引きずりこむようなラスト。

この瞬間に感じている
感情、感覚、鼓動全てが揺らぎ
曖昧になりかけ、
思わず手のひらの感覚を確かめたくなるのでした。

オススメです。